灯台へ
「灯台に行きたい」と女は言った。感情のない声だった。
向かい合わせに座っているというのに、女はぼくの顔を見ることもせず、しきりに自分の爪を気にしている。
「これから?」
女は視線を移さぬまま、黙って頷いた。
助手席の女は半身を窓の方に向け、肘をついて外を見ている。ぼくは窮屈な気持のままハンドルを握っていた。
女はどうして灯台に行きたいなんて言いだしたのだろう。退屈なら用事があるとか何とか言って、いつでも帰る女だ。
結局ぼくらはほとんど言葉を交わすこともなく、灯台の見える場所まで来てしまった。
女は先にドアを開けて車を下り、灯台に向かって歩き始めた。ぼくは重苦しい心持ちのまま、ゆっくりと女の後を追った。
灯台の先に海が見えたところで女は立ち止まり、ぼくに向き直った。そして風に暴れる髪を片手で押さえながら、何か言った。
女の声は海からの強い風と潮騒にかき消され、聞き取れなかった。
女はぼくに聞き返す間も与えず、怒ったような素振りで背を向けた。
傾きかけた陽を映した海が、乱暴に輝いていた。
日方泊岬灯台
上ノ国町小砂子で写す
(c) Keith Young
by junpei-misaki
| 2018-10-17 21:55
| α7Ⅱ
|
Comments(2)
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bluemoon0512 at 2018-10-18 06:33
映画のワンシーンのようで彼女や僕の表情を想像して
しまいました。
この坂を右に曲がると景色もまた違ってくるのでしょうね
しまいました。
この坂を右に曲がると景色もまた違ってくるのでしょうね
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junpei-misaki at 2018-10-18 12:36
bluemoonさん
こんにちは。最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この灯台のある岬をぐるりと回ると、眼下に漁港を見ながら道は下っていきます。右手には、へばりつくような岬の集落が見える、私の好きな場所です。
こんにちは。最後までお読みいただき、ありがとうございます。
この灯台のある岬をぐるりと回ると、眼下に漁港を見ながら道は下っていきます。右手には、へばりつくような岬の集落が見える、私の好きな場所です。